[2009,02,24 見学] 医療ジャーナリスト・福原麻希 感想文

訪問のきっかけは「在宅医療の多職種連携」ヒヤリングで
長寿医療センター在宅医療推進会議作業部会で「地域ネットワーク構築のための事例集」を作成することになり、2月、私は全国6つの診療所やクリニックを訪ねました。在宅医療医の悩みの1つに「地域の資源をどのように自分のネットワークに取り込むか」があるからです。今回は、おもに「院内外の多職種連携」についてヒヤリングしました。その調査先の1つがナカノ在宅医療クリニックでした。中野先生のご配慮で訪問診療にも同行させていただき、現場の様子をいろいろ拝見させていただきました。

◆コミュニケーションの三種の神器はメール、デジカメ、ML
ナカノ在宅医療クリニックの多職種連携の特徴は、すでに報道されているように「コミュニケーションツールとして、パソコンのあらゆる機能(メールやデジカメ、MLなど)を活用していること」です。たとえば、▽医師は診療ごとにその場で情報をパソコンに入力する、▽診療終了後にはクリニックの事務にメールで情報を送って、電子カルテをつくる、▽皮膚疾患などは患部をデジカメで撮影し添付する、▽情報は院内のMLに送り全員で共有する、など。その結果、訪問診療チームのメンバーが患者全員の情報を把握し、適材適所で仕事についていました。

  ▲「フォトセラピー」誕生日には花束を用意し、
    写真撮影をしている

MLの活用については、鹿児島市内の医療・介護・福祉・行政の連携ツールとして「在宅ケアネット鹿児島」を立ち上げ、いまでは全国700人以上の登録者がメールによる投稿を閲覧しています。MLにあがる投稿は1日20通前後。中野医師が1つ1つの投稿にきちんと返事を書き、参加者同士がケンカにならないよう調整していることが活発な投稿を呼ぶカギとなっています。中野医師自身も情報はこのMLで収集しているそうです。  

ワークシェアリングでモチベーションアップ
中野医師はメンバーの能力やよさを引き出すことにも長けています。積極的に権限委譲しているため、それがメンバーの仕事へのモチベーションにつながっていました。このような多職種連携のポイントについて、中野医師は「ワークシェアリングすること。
つまり、自分しかできない仕事に専念することです。コメディカルはその気になると優秀で、医師が前に出すぎるとスタッフは育たない。医師はチームの監督として、①治療方針を決める、②バッドニュースを伝える、③最終的な責任を持つ、の3つの仕事をすればいい」と言います。

◆在宅医療医が周囲の信頼を勝ち取るためには
今回のヒヤリングで、そのほか印象に残った話を2つ。
1.      在宅医療では営業力やコミュニケーション力が必要 
「開業当初から、『わたしたちにはこういうことができる』というアピールをくりかえし、患者やスタッフの信用を勝ち取るよう努力した。執筆や講演の依頼があれば、忙しくても積極的に引き受けて、体を動かした」

2.年間300冊の読書で見識を広げる
「朝4時に起きて、1時間半のメールチェック後、外出まで1時間本を読んでいる。医療だけではダメ。なんでも読む。経済や政治、哲学なども勉強しています。最近は上野千鶴子さんのジェンダー論に影響を受けましたね」
夜は8時か9時に寝て、睡眠時間は8時間という。
やはり、第一線で活躍する人は読書家が多いと思いました。

◆そのほかの5軒のヒヤリングのなかでは、「ITとMBAプログラムによるビジネススキルで常時400人の患者を診ている」という三つ葉在宅クリニック(名古屋市)の舩木良真医師のチーム医療が大変印象的でした。