2008.06.30-07.01見学】 藤原 瑠美 氏 報告

6月30日、7月1日と朝から中野さんの一日に「へばりつき取材」をさせていただき、超高齢社会への新しいムーブメントに触れる思いがして感激をしました。

中野さんがおっしゃる

「在宅医療は超高齢社会では時代の先端医療になる」

「疾病構造が変化した。これから必要なのは『予防と保健』」

「超高齢社会で増えるのは病人ではなく障害者である」

「障害者に必要なのは介護力。それを支える訪問看護、医療は後方支援部隊」

というお考えの現場をこの目で確かめました。
朝8時の毎朝のスタッフミーティング(とても真剣で活発)に出席、8時30分に車で出発。

鹿児島湾を望む高台の坂道の多い地域に点在するお宅の訪問に同行しました。
両日ともお天気がよく、窓から入る庭の木々をわたる風が心地よく、住み慣れた自分の家で最期の時間を過ごす皆さんの豊かさを感じました。

30日はお昼をはさんで3時までに18軒。帰宅してからは介護相談があり、それにも同席しました。1日は12軒。ひと昔前なら在宅では無理な末期の方から、保健でかかわっている高齢者の方、心臓疾患の若い女性など患者さんは多様でした。


印象的だったことは
@ 訪問診療に同行した看護師さんが自律・自立・能動的でしっかり初期医療にかかわっていたこと。看護師さんと中野さんの関係が実にフラットなこと。
(スタッフの力を引き出した組織マネジメントの成果ではないでしょうか)。
  
  
A 患者さんと中野さんの心の距離の近さ。一人ひとりの患者さんに対する個別対応のきめ細かさ。これは心のエネルギーがかなり必要ですね。(サービスマネジメントの視点からみて)
お誕生日の患者さんには花束花をプレゼント、その患者さんの笑顔が忘れられません。


B 車で移動中には、各自パソコンに訪問診療の内容を入力、それがクリニックの事務方にメールで転送され、患者さんの病状を瞬時に把握できる電子カルテとなるシステム。急性期で入院する時など、これからの地域医療にはかかせないものではないでしょうか。


C 余命2週間といわれて病院を退院した乳がん末期の女性が2年も生きられた事例や、4回も救急車で搬送された男性(83歳)が在宅という生活空間の中で穏やかな時間を過ごしている事例。(いづれも救急車の替わりに中野先生や看護師さんが駆けつけることで、病院に行かなくてもよかった)低栄養の解決でお元気にもう一度暮せる・・!


D 医師や看護師が患者にかける言葉が薬以上の効果になること。
訪問時に患者さんにかける言葉 「(こんなに元気になったのは)介護の勝利ですね」「何かあったらすぐに連絡をしてください」を繰り返していました。
とにかく患者さんや家族との気さくな会話が患者さんを勇気付けていると思いました。


E 患者さんや家族がクリニックから教育を受けていたこと。最期の時には救急車で病院に搬送しなくていいと思っていること。薬の名前もいえたし、痰の吸引などもできることなど。
  実際、家族の役割が大きいと感じました。(今回は独り暮らしの在宅例にもたくさん出会いましたが)

  スウェーデンでも「沈黙のケア」といい、1980年/81のULF調査
  Johansson L., Informell knntra uffenrtlig aldrenomsorg:nagra datafran ULFでは家族や近所の人などによるインフォーマルケアは71,5%という結果が出ています(これはスウェーデン全体のことです)

  2006年の地方紙(SKANSKADAGBLADETの記事に、スウェーデンには20万人の沈黙のケアがあると書かれていましたが、それが介護を受ける人の何%に当たるかは調査中です。ほとんどが伴侶互いの介護で、日本のような2世帯同居は数パーセントなので、日本の家族介護のイメージとは違います。訪問介護・看護で訪れた高齢者の8割〜9割が伴侶を亡くした独り暮らしでした。しかし、子供は別に暮しても、頻繁に老親を訪ねている事例にもたくさん出会いました。


最後に
スウェーデンエスロブ市の高齢者福祉の姿は、まさに1992年のエーデル改革(医療改革)から15,6年を経たコミューン(地方自治体)の安定した高齢者福祉の姿で、日本の後期高齢者問題にぴったりと当てはまるヒントがいっぱいありました。

急性期の入院を終えた高齢者や、虚弱な高齢者を、医療というより多様な福祉サービスの受け皿で支えている姿を見てきました。

スウェーデンの虚弱な高齢者を社会支える姿と、今回の鹿児島のナカノ在宅医療クリニックが目指す理念と重なるものがあったと思います。中野さんがおっしゃる理想・目標は私が取材したスウェーデンと方向は同じ方を向いていたと思います。

帰京した翌日は、NPO法人白十字訪問看護ステーション所長の秋山正子さんが中心になり連続で企画している「この町で健やかに暮らし、安心して逝くために」〜在宅ホスピスが実現できる地域づくりをめざして〜
に参加、あおぞら診療所の川越正平さんや、フジモト新宿クリニックの藤本進さん、そして、行政担当者や家族、訪問看護ステーションの熱い話を聞きました。

鈴木央さんも聞きにこられていて、帰りにゆっくりお話をすることができ、医療崩壊と言われているなかで、新しい萌芽が着実に芽生えていると実感しました。このムーブメントを摘まないで、発展させるには、専門家たちだけではなく、市民が賢くなることが肝要。


テレビを中心とするお茶の間のマスコミの報道をよく吟味する市民の勉強がますます必要と感じました。そうでないと、自分の愛する家族を不幸にするからです。長いメールになってしまいました。

ナカノ在宅医療クリニックの皆様
中野一司さん

ありがとうございました。