2008.01.21-25 研修】 飛永 雅信 氏 感想文


 「going concern」という言葉は、所謂会計学用語で企業活動が継続する、或は継続し続けなければならないとする会計学上の前提を示す言葉である。
 換言すれば、この言葉は、企業が一定の利益を出し、従業員の生活を支え続けると同時に、消費者に一定のクオリティのサービスを提供し続ける社会的責任を負うということを意味している。このような回りくどい前書きをする理由は、私がこの1週間、ナカノ在宅医療クリニックでお世話になり、中野先生の言葉の端々に強く感じたことは、まさにこの感覚であったからである。
 中野哲学を語るキーワードはいくつか存在する。権限委譲とチームプレー、それを円滑にするIT化、急性期病院、在宅医療から各家庭までを包含した地域全体を大きな医療の枠組みととらえる考え方など。しかし、結局これらは事業の持続可能性という根幹から派生した戦略、或いは具体的施策のパッケージング、スタイルの問題に過ぎない。そして、この持続可能性の前提となるのが、個人から社会全体の各レベル毎の医療ニーズの的確な把握である。ここがキモである。
 私は研修初日の感想を聞かれ、「在宅の患者さんが非常に良い表情をされていて、病院で見てきたどの患者さんとも違っているということが印象的だった」とお答えした。これは、中野先生が特に高齢者医療のニーズを的確にとらえた結果であると思う。すなわち、このことは、「質の高い医療サービスを受けたい。しかし、慣れた環境で、自分らしい生活スタイルを維持しながら、リラックスして治療を受けたい」という、人間として至極当たり前の感覚にどれだけ忠実にサービスを提供できるかということの答えの一つが在宅医療にあるということを示唆している。
 1週間ナカノ在宅医療クリニックにお邪魔して、実に様々な体験をさせて頂いた。本当に医学だけでなく、医師としての生き方、人生論、社会制度、政治や行政に至るまで、実に様々なことを熟考させられた密度の濃い研修であった。人材育成はクリニックの事業目的の一つであるとまで言い切り、労を惜しまずに色々教えて下さった中野先生、お忙しいところ訪問に同行させて下さった先生方、看護の体験をさせて下さった訪問看護スタッフの方々、研修医の訪問を快く受けて下さった患者さんとご家族の方には、この場をお借りして深く感謝申し上げる次第である。