ナカノ在宅医療クリニック見学報告】

慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科 修士2年 岡田由木子


秋晴れの鹿児島で、ナカノ在宅医療クリニックの見学と訪問診療同行が無事終わった。濃厚な1泊2日の旅だった。鹿児島行きのそもそもの発端は、8月末に東京で行なわれた「ITヘルスケア学会・在宅医療とIT分科会」で中野先生の講演を聞いたことであった。この講演以前に200床規模の病院を有する首都圏の医療法人での在宅医療取組み状況を見ていたが、訪問診療を中心に据えた在宅医療を見たいと思っていた。講演で興味を覚えたことは以下の3点であった。「電子カルテとスタッフ間のメール利用で日々情報共有をしている」、「出来るだけ往診をしないですむ仕組みを作った」、「家族サポート無しでケアできる体制をあと10年できちんと作っていく必要あり」。果たしてナカノ在宅医療クリニックが実践している医療とはどのようなものであったか、以下に感想を述べたいと思う。

 まず、クリニックへ入って目に留まったことはスタッフ各自がパソコン(以下PC)に向かって仕事をしていることであった。PCは訪問診療にも携行し、電子カルテの入力、急な往診依頼が入った際の出先でのカルテ参照、メール連絡等々、当たり前のように使用されていた。医師・看護師は専門職ゆえにPC利用に適さないといった拒絶に近い声を以前当事者から聞いたことがある。しかし、在宅医療のように複数のスタッフが連携して常時患者さんへ関わる場合、情報の共有化は必須であり、IT利用の威力が発揮される場面が多い。以前会社員であった私には見慣れた光景であるが、ITを特別なものではなく、当たり前のツールとして利用することは必然であると、今回改めて思った。

 次に、在宅医療の仕組みづくりについてであるが、ナカノ在宅医療クリニックが開業7面目を迎えて、土台作りから第2ステップへの転換期にきていると感じた。訪問初日、医局会議に参加させていただいたが、メインテーマはグループ診療のための情報共有化であった。24時間体制の維持はスタッフ間の連携と信頼なくしては成り立たたない。どうコミュニケーションを取っていくかという命題は、在宅医療分野に限らず、業務拡張と質の担保のためには必要なことと思う。在宅医療のトップランナーゆえ、他に理想モデルが無く、生みの苦しみが伴うかもしれない。しかし、今回感じたクリニック内の「風通しのよさ」と「スタッフの志の高さ」は、理想モデル構築の最大の武器となるとも思った。

 そして、訪問診療に同行して感じたことは、患者さんをサポートする家族の方々の熱心さとそれに応える医療スタッフの姿であった。直近の患者さんの様子や服薬状況の詳細を報告したり、処方について納得がいくまで質問をされたりするご家族が多くいた。在宅医療は日々脈々と続く生活の一部であり、医療スタッフもあくまでもサポート役の一員であることを実感させられた。一方、今回の訪問先は手厚い家族介護者の下で在宅療養が成り立つ患者さんが大半であり、「家族サポートに頼らない体制づくり」のヒントを得ることは出来なかった。この点は自分自身の今後の課題としたいと思う。

最後に、何の縁もゆかりもない我々学生2名の見学を快く受け入れて下さった、中野先生とスタッフの皆様に心から感謝したい。地域に必要とされる在宅医療を日々実践されていく様子を、これからも期待を持って注目していきたいと思う。       以上