ナカノ在宅医療クリニック見学報告】

慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科 修士2年 服部啓子

ナカノ在宅医療クリニックで、院内ミーティングの見学と訪問診療への同行をさせていただきました。初めて在宅医療の現場を拝見し様々なことを感じましたが、その中で今回は特に在宅医療における次の3つの関係 @患者と医療者との関係、A医療者間の関係、B医療とITとの関係、について感想を述べさせていただきます。

まず、在宅医療の診療現場における患者と医療者の関係が、病院や外来クリニックのものと大きく異なることに驚きました。外来で見られるような、白衣を着衣し肘掛椅子に座る威圧的な医師、補佐的な看護師、緊張して気を使う患者、という役割はそこには存在しません。普段着の医師・看護師が患者・家族と信頼に基づく関係を築いており、そこが生活の場であることも手伝って、その場の主役は患者・家族であることを強く感じました。その代わり、患者・家族は自らの病と主体的に病に向き合っており、処方や検査結果について疑問に思うことを医療者に聞き、意見し、納得しているという光景を何件か見たことが印象的でした。

もう一つ印象に残ったのは、医師・看護師・事務スタッフ間の関係です。見学させていただいたミーティングでは、複数の医師・看護師の間での患者情報の共有方法について議論されていました。しかし、この「情報の共有」の問題は在宅医療固有の話ではなく、医療以外の全ての産業にも共通する、チームで仕事をする際の普遍的な課題であろうと思います。どんなにすぐれた電子カルテシステムや業務フローを構築しても解決できるわけではなく、最終的には個人の心がけにかかっているのかもしれません。今まで医師一人で運営してきたクリニックという業態にとっては、この「情報の共有」の部分は未だ発展途上であって、今後複数の医師や施設でグループ診療を行なうクリニックにとっては克服すべき問題の一つなのかと感じました。ナカノ在宅医療クリニックにおいて、その先陣をきって素晴らしいグループ診療が実践される可能性を感じました。

そして全体を通して、電子カルテ、携帯端末等のITを多用するナカノ在宅医療クリニックが、逆にITは単なる道具に過ぎないということを表している印象を受けました。訪問診療の現場において、医師・看護師は手際よく診察し、その場でノートパソコンを広げて電子カルテにデータ入力していましたが、それにより暖かい患者−医療者関係が崩れることはありません。未だに言われる「電子カルテだと先生がPCばかり見て患者を診なくなる」という問題の原因は、当然ながらITにあるのではなく、技術の未取得や対話を面倒だと思う医療者の心の中にあると考えます。一方で、IT装置を導入したからと言って自動的に完璧なチーム医療が可能となるわけではないということが、逆の意味でもITは道具にしか過ぎないことを物語っていると感じました。

在宅医療は、病院の退院支援機能との連携等、今後その重要性は増すばかりであろうと思います。この風通しの良い(良すぎる?)素晴らしいクリニックが、今後も地域の中で益々発展されることを心からお祈りしております。2日間に渡り見学を快く受け入れてくださったクリニックの皆様、本当にありがとうございました。