2005.08.09見学】 大野 圭子氏 研修報告

「ナカノ在宅医療クリニック」往診見学感想

 前々から一度は見学したいと願っていた「ナカノ在宅医療クリニック」で、89日の朝8時半から夕方6時までたっぷりと訪問診療の見学をさせて頂くことができた。その上、約2時間の中野先生によるレクチャー付きの、「最先端の在宅医療のかたちとは」「チーム医療とは」「患者中心の医療とは」「コスト意識と質保証の両立」などについて考える、衝撃的な1日を過ごすことができたので、感想をお伝えする。

 この日にお会いした方々は、様々なかたちの暮らしぶりで、それぞれの価値観を持ち、自分たちに起こった疾患からくる様々な出来事と付き合いながら暮らしていた。脳卒中後遺症の母親の介護に不満を持ちながらも逃げずに介護を続けている長男、ガン末期の状況を引き受けながら過ごす患者家族、1年前に死ぬと言われて現在元気で家で暮らす方とその生活を支える素敵な家族、ALSで再入院した病院先への訪問等、盛りだくさんの22人の方と面接することができた。

 特に印象の強かった、患者家族の選好preferencesに合わせること在宅医療の効率化についてひと言。

 患者のニーズに合わせた治療やケアを提供することは、言うは易しである。まず信頼関係ができていないと、本音で語り合えない。その点、ナカノは凄い。「私」という、いつもと違う存在がお邪魔したのだが、誰一人拒否される方がいなかった。どうぞと迎え入れて下さり、いきなり患者を目の前に「こんな面倒なこと(介護)をするのだったら、そのまま東京で勤めておけばよかった」と本音を語り始めた。また、個人的な体験から古いタイプの胃瘻しか使用せず、2回も周囲の皮膚感染症を起こしたが、新しいバルーン式に変えようとしない家族。医学的適応Medical Indicationでいうと困ったケースなのだろうが、スタッフは苦笑しつつも現状のままで受け入れていた。在宅では、患者家族の自己決定力が重要となる。Jensonの患者の臨床倫理の4分割法によると、患者の選好、自己決定の原則の枠であるとさりげなく説明していただいた。理論とつなげながら実践しているナカノスタッフのレベルの高さを実感するひとときだった。また、病院でできてしまった褥創を在宅医療で治す話は以前、中野先生から聞いていたが、褥創の治療回復には湿度が必要であるという根拠に基づいた代替療法のラップ療法を日常的に使っており、切り傷を治す感覚で治していた。凄いなと思うひとときであった。

 在宅医療の効率化という点では、車の移動は専属の運転手により優先度・距離的効率を考慮しながら移動し、車の移動中に医師・看護師が訪問先の打ち合わせを行う、各々の端末へ在宅訪問で実施したことその場で入力するため、帰って書くという作業はなくてすむ。これまでの往診医療は、主治医1人で抱え込む医療という印象があったが、「抱え込まない」チーム医療を意識していた。スタッフが疲れずに、よい医療を提供するためにも効果的で効率的な運営が重要であると実感。   ナカノスタッフ全員が用いている情報システムについては、従来のソフト「アクセス」を、使い手にとって入力・活用しやすいように開発された「ダイナミクス」というソフトを用いていた。システムは徐々に人との関係性の中で構築していかなければ意味がないと思うが、ソフト開発者へ直接修正を要求する、日々のケアカンファレンスや話し合いから出た要求をシステムに取り入れる等、正に真のシステム作りに取り組んでいるのだなあと衝撃を受けたひと時であった。

 ただ、どの医療機関でも問題となっていることだが、残念なことに情報として蓄積されていくが、必要な分析データについて検索できるデータベースとしての蓄積になっているか、というと問題が残っていると感じた。今回の見学目的である、有効な地域医療連携のための情報共有のあり方について、これからもナカノのスタッフと共に考えていくことができれば幸甚であります。

ナカノの皆様、本当にありがとうございました。今後もどうぞよろしくお願いいたします。