在宅医療研修を通じて

 臨床初期研修では急性期病院におけるキュアを前提とした医療現場に身を置き、そこでは患者を苦しめる疾患を治療し治癒させることが医療の前提でした。しかし、現場では矛盾を感じることもありました。例えば回復の望めないまさに人知の及ばない強い力で死へと向かう患者を前に家族の気持ちの整理ができるまで、患者本人のためでなく家族とそしてきっと医療者のために、通り一遍の治療を行うことも珍しくなく、そのようなときには心のどこかに引っかかるものを感じながらもそれが残される人に対しては必要なことなのだろうと強制的に自分を納得させて最後の治療を行っております。この晴れ晴れとしない気持ちがどこから来るかと考えますと、御本人・家族にとっては一生の中で一番大切な時のひとつであるはずの人生の最期を、御本人の意向を解さずに、また家族が十分な心構えと納得を得られないまま、いわばその場の空気がすべてに優先されている現実からと思われます。他方、ここで行われている医療は、御本人と家族にキュアを至上とする考えをほぐしてケアを主眼に置けるよう、専門家としての医療者が手助けをすると言うものです。はじめは受け入れがたい現状も、専門家がよい意味で権威を発揮し、御本人・ご家族が安心してケアへと転換されるのを促すことで、その矛盾は解消されうると感じます。残った課題としては、一人一人と寄り添い時間をかけて納得の行く最期を模索するため、多大な量的時間的なエネルギーを要するということです。この分野の重要性が認識されるにつれより多くの医療者がこれに従事するようになることは間違いないと思いますが、それまでにはまだ少しの時間を要するのではと思います。 最後にこのような貴重な機会をいただき、中野先生をはじめ、スタッフの皆様に感謝申し上げます。