平成22年度 離島・地域医療実習レポート
学籍番号4206100900
番号37番
氏名 白坂 渉
1.実習先:鹿児島市ナカノクリニック
2.実習期間:平成23年5月24(火)〜5月26日(木)
3.実習記録
5月24日(火)
実習:訪問診療
内容:医師に同行し午前・午後とも患者さんの自宅を訪問し、バイタル測定や、胸部聴診、医師。看護師の診療の見学と補助を行った。認知症・脳卒中の後遺症・末期癌・心不全・低酸素脳症、ALSなど患者層は様々な方がおられた。先生と看護師さんの連携のとれた素早い診療についていくのがやっとだった。血圧測定を後半でやらせてもらったが、上肢が伸展している普通の患者さんでもベッドサイドでうまく測れなかった。特に脳卒中や脳症で上肢が屈曲しているような患者さんでは、全く聴診器で音が聞こえなかった。一人の患者にはマンシェットを巻くときにこそばがられ、非常に不快感を示されてしまった。自分は血圧すら満足に測ることもできないのだなと、自分の無能さを実感した、またこのようにして些細なことでトラブルになるのかなと感じた。聴診させていただいたが先生の指摘する拡張期雑音は自分には全く分からず、勉強不足を実感した。薬剤内服が多い患者さんの薬剤の整理と一包化のために数を数えるのが大変であった。前立腺癌の末期の患者さんにリュープロレリンの注射をしていたのでこんな高価な治療も在宅で可能なのだなと驚いた。
5月25日(水)
実習先:ナカノクリニック(午前)
内容:午前中はナカノ先生にお忙しい中、時間を設けていただき講義をしていただいた。ナカノクリニックでの診療の概説から始まり、先生がどんな人生を送り今に至っているか、現在の政治に関する内容、経済学、また、東北地震の視察に行かれた時の写真などを見せていただいた。さらに哲学的な内容まで講義していただき、先生の勉強熱心さ、好奇心、幅の広い知識に驚かされた。自分の知識の少なさを、世の中のことを何も知らないことを思い知らされた。キュアとケアの話や小沢一郎が天才的な政治家であることが印象的であった。
実習先:吉村病院、新患宅(午後)
内容:大腿骨頚部骨折術後の患者さんの退院後の在宅への導入を始めて目の当たりにすることができた。医師、看護師、ケアマネージャー、理学療法士、病棟師長などが総勢で退院後の患者さんの生活を補助するために話し合う現場を初めて見ることができて、このようにして急性期病院から在宅へ移行していくのだなということがよくわかった。
そのあとに新規の患者さんの自宅で同じような導入のミーティングに参加した。先生がこの患者さんは高齢であるし、誤嚥もあり、近いうちに朝、呼吸をしていない可能性もあるのでその際には救急車を呼んだりしても家族皆が不愉快な思いをするだけなので決して呼ばずに天命を受け入れるほうがいいと、介護士や患者さんに強く説明する姿が医師という仕事の責任の重さを再度感じた。このときに認知症の患者さんの義理の娘さんが、旦那さんを癌で亡くしているにもかかわらず、義理の母親を自宅で見るために部屋を改築して退院を待っていたことに感銘を受けた。自分は義理の親どころか自分の親にすら30歳になった今でも学費を出してもらい、何の恩返しもしていない自分をまた恥ずかしく感じた。中野先生が親より次の世代に自分の人生で得たものを引き継いでいくこが大切だと言われたことが救いになった。その後、グリオーマの患者さんで、脳浮腫があり、ステロイドを投与した翌日から、せん妄が出現し、家族が慌てふためいていて目つきが厳しくなっているのが自分にもわかるほどであった。壁にかかっていた昔の警察官として職務を果たしていた家族皆でとった平和的な過去の写真がむなしく感じた。しかし、それでも奥さんの名前をさけんでいるのを聞いて、夫婦の関係は本当に深いものだなということを実感した。
自分も親が認知症になって息子のことすら分からなくなってしまったらこんな風に親を不快な存在として扱ってしまうのだろうかなどと思いを馳せてしまった。
5月26日(木)
実習:訪問リハビリテーション(午前)
内容:理学療法士の先生に同行し、進行性核上性麻痺の患者さんの訪問リハビリテーションを見学した。教科書でしか見たことのない疾患であったので貴重な体験であった。確かに眼球垂直運動障害があり、項部ジストニアがあり、パーキンソニズムで筋固縮があり、認知症があった。患者さんは寝たきりの状態で、意思疎通は不可能な状態であった。病気の進行によって、嚥下障害が出現し、誤嚥性肺炎を繰り返している状態であった。胃ろうを造設されていたが、ご主人の希望で経口摂取を少量ではあるが行っているということであった。患者さんの旦那さんは非常に知的なかたでいきなりこれからの日本の医療はどうなっていくのか言いたまえと言われて何も言えない、何も考えていない、自分がはたしてこの世のために何の役に立ち、何が自分のしたいことなのか、自分の適性を未だ全く分かっていないし見出してすらいない自分にまた恥ずかしくなった。歴史の話をされても、具体的には孫文の話であったがそれに対しても何もコミュニケーションができなかった自分の無知さ、教養のなさを恥じ、このままでは医師になって患者さんとコミュニケーションをとることができないのではないかと不安を感じた。国家試験後には教養を深めてから臨床に臨まなければならないと強く感じた。
実習:訪問看護(午後)
内容:看護師に同行して、肺気腫と肺癌の末期の患者さんの入浴介助を見学させていただいた。最初に看護師のかたから家がすごく汚くて、床がくさっていると言われたので自分は体重が重いので床を抜かせてしまったらどうしようかと心配であった。家に入ると確かにすごく悪く言うとボロボロの家であった。鹿児島県の所得が低いと前々から聞いていたが、それを実感できた。しかし患者さんは思っていたより、聡明なかたで戦争中の話や、昔の話をしてくれた。戦闘機で上空8000メーターまで上がったことも話してくれた。その患者さんが看護師に必要な三つは、注射がうまいこと、医療機器、器具の使い方に精通していること、コミュニケーション能力が高いことを挙げた。それは医師にも全く当てはまることであるなと感じた。初めて訪問看護を見ていて、看護師の優秀性を知った。体を洗うのが本当にうまく、また酸素投与をしながら、サチュレーションを確認し、静水圧を考慮して風呂の水位を決めて完璧な入浴介助であった。本当に感心した。その看護師が研修医は病院で邪魔だと言っていたことに納得できた。しかも、非常に患者さんとのコミュニケーションがうまく、相手の話をうまく引き出していた。礼儀も正しかった。医者は世間様から見ると常識のない人間が多いと感じることが今まで多々あったが、看護師は医師より世間の常識を持ち合わせている人が多いのかなとも感じた。ナカノクリニックの看護師は優秀だと聞いていたがまさにそのとおりで、看護師に対するイメージが自分の中で変化していくのを感じた。
4.まとめと感想
今回在宅医療の現場を肌でかんじることができて、本当に貴重な体験をさせていただきました。ナカノクリニックのスタッフの方々は、チームワークがよくて、仕事を楽しんでいて皆さん目が輝いていたように感じました。同時にスタッフの優秀性がよくわかりました。そのスタッフを取りまとめている中野先生は人の上に立つ人なのだなと感じました。勝手な見解ですが、何か新しいことを造り上げる人は共通して、自分の適性を見極め、幅広い教養と知識があり、時代をよむ能力に長けているのだなと最近感じています。私は、ギャンブル精神が全くなく、自分が社会に対して人と違う何かしたいという気持ちが強いのですが、それが何なのか分からずに毎日悩んでいます。研修中に何か自分の適性を見極めることができればと考えております。
この度は診療でお忙しい中、診療を見学させていただきまして本当に有難うございます。大学病院や市中病院では決して経験することの出来なかった現場での実習ができて、刺激になりました。今は国家試験に来年合格して、少しでも早く社会に貢献できればと考えております。中野先生、スタッフの皆様お忙しい中本当に有難うございました。
以上で感想とさせていただきます。