ナカノ在宅医療クリニックでの実習を終えて

鹿児島大学医学科6年 武藤 一考

今回、ナカノ在宅医療クリニックにて実習をさせて頂きました。在宅医療。僕の中では、在宅医療とは自転車で年配の先生が往診をしているイメージ位しか沸いていませんでした。

病院を退院された高齢者が在宅に切り替えた後の医療。今まで見学した病院にも慢性期の患者さんはいらっしゃったし、お年を召された方々もたくさん入院されていました。治療の場が病院から自宅に変わったからといって何が変わるのか、僕にはうまく想像できませんでした。

そんな貧困な想像力しか持たない僕なので、ナカノクリニックでの実習は非常に驚きに満ち、新鮮でした。様々な点で僕の想像とは一線を画していたからです。

まず、病院での回診とはまるで違う診察風景があります。これは当然といえば当然なのですが、患者さんが患者さんの生活の中にいるところに先生が入っていられることが新鮮でした。愛犬が傍にいたり、庭を自慢されたりと、患者さんはリラックスされている様に感じました。自分の身に置き換えて考えても、入院生活よりも自宅が良いというのは分かるのですが、実感として在宅医療の利点を知ることが出来たと思います。

また、クリニックのスタッフ間のコミュニケーションが密であるのも驚きでした。カンファで看護師の方々と先生との情報のやり取り、メールでの患者さんの診察情報の共有など、これまで見学させていただいた病院とは違う形態でありました。また、先生や看護師の方との患者さんの家族の関わりも特徴のひとつに挙げられるのではないかと思います。在宅医療では患者さんの日常の世話や軽い処置は家族の方が行うことになりますが、そこで生じる問題や負担、そこから分かる患者さんの体調をひとつひとつ拾い上げていく所も、在宅医療の重要な点であることを教えて頂きました。

想像とは大分違った在宅医療ですが、さらに中野先生は社会情勢と在宅医療の関わりについても教えて下さいました。中核病院が疲弊していき、在院期間が短縮されていく現況において、慢性期の患者さんを在宅で診療していく事は求められていることであるし、高齢社会において長期に渡る病気と付き合っていく人生をサポートしていくことの重要性は新鮮でした。医療費を削減しようとする社会の流れや、医師不足が顕在化より、医療難民が出現していくのではないか、という危惧を訴えるニュースをよく目にします。高齢社会であり、更に今後も高齢者数が増加していく中で医療費削減を求められ、慢性期、高齢者の医療が社会的関心を得ています。この問題のひとつの解決策を提示された様で、先生の考えに驚くと共に、勉強になりました。

もうひとつ実習で学んだ事があります。二日目に訪問看護を見学させていただいたときに、看護師さんに病院勤務と今とどちらが良いか、と何気なく訪ねてみました。すると、看護師さんははっきりと、在宅の方が良いとの答えでした。何故なら、病院とは違い、在宅ではより患者さんひとりひとりに時間をかけて看護できるから、との理由で、僕は変に納得してしまいました。道理で、先生や看護師さん方がいきいきと元気にしている印象があったのか、と思い当たったからです。患者さんにとってだけではなく、医療者側にとっても在宅医療には利点があること、これが実習で学べて良かったと思います。

最後になりましたが、突然の見学を快く承諾してくださった患者様、忙しい中実習をさせて下り色々と教えてくださったスタッフの皆様に、この場をかりてお礼を申し上げます。