ナカノ在宅医療クリニックで実習を終えて
                            鹿児島大学医学部6年  堀田 和子

 2年前の夏の見学では鮮烈な印象を受けました。あれから1年間の臨床実習を終えて、この春再びナカノ在宅医療クリニックで実習をさせていただきました。今回の実習は大学の正規のプログラムであり、離島へき地医療枠での選択実習でした。離島実習を選択してもまた違った経験ができたとは思いますが、あえてナカノを選択したのには理由があります。前回の見学で鹿児島市内の中心部からほんの数十分のところにも社会的な意味での「へき地」があることを知りました。そのような視点で実習をしたいということが第一の理由でした。もちろん、ナカノでの在宅医療の現場を臨床的な知識が少し増えた今、もう一度勉強したいという思いや、常に一歩先を歩いていらっしゃる中野先生にお話を聞きたい、という思いもありました。

 在宅での患者様の管理で重要なことは呼吸の管理、疼痛管理、そして体液コントロール、血圧、食事、だと感じました。呼吸苦や疼痛は患者様のQOLを著しく下げます。病院は治療の場ですから、治療のためには痛みなどは一番の問題点ではなくなってしまいます。また呼吸苦に対しても、去痰剤などを細かく調整しているところはあまり見たことがありません。ですが患者様本人や、介護する方にとってはどちらも重要な問題です。ナカノでは看護師の方が詳しく日々の様子を聞き取ったり、実際に診察を行ったうえでドクターと相談して投薬をコントロールされています。患者様が日々不安に思うささいなことを、きちんと情報交換しているからこそ、患者様の満足度が高いのだと思います。よりよい生活のための医療が行われているとあらためて感じました。

実習中には、2名の患者様の看取りがありました。亡くなる前には血圧が下がり、各臓器が機能しなくなっていくので、スタッフの方たちもある程度は予測してケアをされていました。じょじょに血圧が下がって死が訪れるのをみまもることはご家族にはつらいですが、非常に自然なことだと思いました。以前ある病院で対照的な光景を見たことがありました。正月の3が日に餅をのどにつめて心配停止となり救急搬送された患者様がおられました。その患者様は92歳で年末まで病院に半年ほど入院されていたそうで食事制限をされていました。退院して1週間ほどのことでした。心臓マッサージを交代しながら、この方は久しぶりに家庭に戻り餅を食べてきっとよいお正月を迎えたのだろうと思いました。救命センターの処置はすばらしく患者様の心臓は動き出しましたが、おそらく意識の回復は難しいだろうということでした。もちろんご家族は一命をとりとめたことで喜んでおられたのでよかったのですが、年齢のことなどを考えると救急搬送されたことが、本当にご本人の意思にそっていたのかどうか考えさせられるケースでした。病院に運ばれれば蘇生しないという選択肢はありません。しかし、在宅ではいつごろどのようなことが起こりうるのかということをゆっくりと時間をかけて、本人あるいはご家族におはなしして意思の確認を行っているので非常に安らかであり、ご家族の様子も穏やかでした。「かかりつけ医」だからこそできる見取りの場面でした。

訪問看護、訪問診療にうかがった地域の中には山がちで、自家用車がなければ交通手段に困る場所や、高齢で病院にいくすべのない方などもいました。どんなに街中にいても社会と断絶した生活状況になってしまえば、そこは「へき地」です。中野先生のお話で「かかりつけ医は予防医学をやっているんだ」というお話がありましたが非常によく実感できました。また訪問看護で看護師の方にもいろいろお話を伺いましたが、ケアマネージャーや、ヘルパーさんたちと緊密に連携しておられたのが印象的でした。ナカノの看護ステーションの方の仕事が地域の医療に貢献している原動力だということを感じました。医師だけでできる仕事はありません。地域医療で必要なのは一人のスーパードクターではなく、合理的な医療システムでありチーム医療だと思います。ナカノは中野先生の理想とされる新しいシステムのモデルホスピタルだと思います。こういったシステムがほかの地域にも浸透していけば医師不足も解消されるのではないでしょうか。

さて最後になりましたが、実習を快く受け入れてくださった患者様、ありがとうございました。これからも研鑽を積み、いつかこの鹿児島の地に恩返しをできるような医師になりたいと思っております。