離島医療実習レポート
平成21年度クリニカルクラークシップ
蜂谷 祥子
1.ナカノ在宅医療クリニック
感想
「キュアを完璧にしなくてもいいんです。ケアをやればいいんだから。」
初日、自身の専門分野の知識しかもたない医者に在宅医が勤まるのか聞いた私の問いに返ってきた先生の言葉がこれでした。非常にショックを受けましたが、同時に「あっ、そうか」という感じでもありました。そして、先生と共に患者さんのご自宅を訪問するうちにその言葉の適切さ、重要性が身にしみてわかってきました。なぜ、患者さんは在宅を選んだのか、大病院ではできないどんなことを期待しているのか、在宅医がやるべきことはどんなことなのか、まず医療者側がしっかりとこれらのことを理解し、常に意識しながら取り組まないと在宅医療がうまく機能していかないのだろうと思います。また、患者側も在宅医療の危険性やその限界を理解することが不可欠です。「期待し過ぎない、でも諦めずにできることを行う」とういう医療者−患者双方の理解のもとになりたっている医療であると感じました。
在宅で医療を行っていくには訪問診察、訪問看護、訪問介護、その他多くのサービスが必要になり、それぞれの連携も非常に重要になってきます。ひとりひとり、家庭の事情も違う、在宅医療に寄せる望みも違う、そんな現場にどう対応していくか。また、家庭に近い存在での医療であるから、患者のみならず家族の肉体的・精神的負担の軽減にも気を配らなければならない。在宅医の行う仕事はそれこそ無限にあると感じました。一人の力には限界がありますが、チームとして行えばこその医療が在宅医療でした。
中野先生は様々な工夫をしてチーム医療を有効に在宅医療に組みこまれていました。本当に守らなければならない情報とそこまで厳密ではない情報との区別をしっかりつけ、後者に関しては患者さんの了承を得た上で、メールでのやりとりも行うなど、今の医療ではちょっと考えられないことも実施されていました。しかしこれにより多くのスタッフと情報を瞬時に共有でき、無駄な労力や時間を省くことにつながっていることも分かりました。
都会でも地方でも、在宅医療の要望はその存在や内容が世間にひろまるにつれ今後益々増え続けていくと思います。在宅でここまで手厚い医療ができることを知ったら、大部分の人が在宅を希望されても不思議はありません。先生が中心となって活動されている学会やメーリングリストなどを多くの一般市民が共有できる時代になるといいと思います。
「自分に余裕がなければ人を救うことはできない。医師としての人生ももちろん大切だが、趣味などで楽しみを謳歌することや、人間らしさを大切にすることも人の内面に接することの多い在宅医には必要なことだと思う。」と先生はおっしゃっていて、とにかく楽しそうに働いている姿が印象的でした。先生の追い求める理想にはまだ遠いのかもしれませんが、やりがいを感じていらっしゃることが良く分かり、とてもうらやましく思いました。3日間と短い期間でしたが非常に充実しており、こういった形の医療があることを知れただけでも今後の医師としての私の考え方に大きな影響を与えるような気がします。
多くの方々にお世話になりました。有難うございました。